Eduardo LorenzanaによるITI Academy学習モジュール「低侵襲な抜歯のテクニック」へようこそ。
日本語翻訳協力者: 出張 裕也
欠損歯をインプラント支持型の歯科補綴物で置き換えるため、特に審美領域での抜歯テクニックに関して新たに注目されるようになりました。歯槽窩に損傷を与えることなく歯を取り除くと、術後の治癒、歯槽堤温存術、およびその後のインプラント治療が容易になります。このモジュールでは、インプラント治療を考慮して、保存不能な歯を抜歯するテクニックについて説明します。
このITIアカデミーモジュールを完了すると、抜歯によって起こりうる歯槽突起に対する歯の喪失の生物学的影響を理解し、最も適切で最小限の侵襲で抜歯するためのテクニッ選択できます。
最初の目的は、抜歯につながる要因に焦点を当てています。いくつかの病気や生活習慣は抜歯の一因となります。これらには、糖尿病、喫煙、妊娠、抗けいれん薬やカルシウム拮抗薬、抗拒絶薬によって引き起こされる薬物誘発性障害、白血病を含む血液疾患、さらに、AIDS、自己免疫疾患などの免疫系の疾患、免疫抑制剤や癌治療による免疫低下などが含まれますが、これらに限定されません。
抜歯の原因ととなる可能性がある歯の状態と疾患には、この臨床例に見られるようなう蝕や歯周病、歯科補綴物の作製(準備)に必要な抜歯、歯髄感染または炎症、および外傷が含まれますが、これらに限定されません。
抜歯につながる要因、重要な学習ポイント:とりわけ、抜歯は次の理由により必要になる可能性があります:病気(医学的状態)と生活習慣、歯の状態または歯科疾患と外傷。
インプラント治療部位で利用可能な骨量は、インプラント治療の結果に大きく影響します。抜歯すると、歯槽突起が大幅に吸収され、歯槽堤の幅や高さが小さくなることが十分に立証されています。これは審美領域で特に重要であり、骨量の不足によりインプラントの埋入位置と埋入方向が不適切に行われ、審美的に問題のある結果につながる可能性があります。これを克服し、補綴学的に正しい(理想的な)位置にインプラントを埋入するために、多くの場合、歯槽堤を拡大するための追加の治療(介入)が必要であり、治療時間とコストの増加をもたらし(必要とし)ます。
抜歯後の治癒過程は、犬モデルで実証されています。抜歯後は、(すみやかに)主に赤血球と血小板で構成される血栓が形成されます。 3日目に、赤血球の溶解し始め、血餅が血管新生組織に置き換わり始めます。 7日後に新しい血管の形成が見られます。 14日目までに、抜歯窩の壁に未成熟な骨または網状骨が見られます。 30日後、ソケットは網状骨で満たされ、90日目までに層状骨にゆっくりと置き換わります。180日目では、層状骨の一部が骨髄に置き換わります。
動物とヒトとの研究結果を比較したところ、ヒトにおける抜歯窩の治癒過程が、犬の治癒過程と非常によく似ていることが示唆されました。犬の実験とヒトの生検より得られた組織像を見てみると、12週間後にはしっかりとした形態の骨小柱が見られ、それらは犬とヒトでよく似た所見でした。
歯槽堤の形態に対する抜歯の最終的な影響は、歯槽骨の高さと幅の両方の減少として説明できます。歯槽堤の頬側で最大の骨吸収が生じ、歯槽堤の中心が口蓋側にシフトすることで、インプラント配置が困難となることがあります。歯槽骨の頬側の幅の減少は最大50%となり、垂直的な歯槽骨の減少量は約2〜4mmです。歯槽堤吸収の多くが、抜歯後の最初の4か月の間に発生します。
抜歯後に予想される歯槽堤の骨吸収量を考慮することが重要となります。骨吸収の重要な指標となるのが歯周組織の表現型もしくはバイオタイプです。厚いまたは薄いバイオタイプは、Cone Beam Computed Tomography(CBCT)を使った計測で、頬側の皮質骨と相関していることが最近明らかになりました。
歯周組織表現型は、唇側の皮質骨の厚さ、歯槽頂部の位置、角化歯肉の幅、歯肉の構造、およびプローブによる可視性と有意な相関を示します。それゆえ、薄い(歯周組織の)表現型では抜歯後の骨吸収がおこりやすくなります。抜歯前の(歯周組織の)表現型の評価は、抜歯後の水平および垂直的骨吸収の程度を予測する際に臨床医の助けになります。
抜歯後の治癒過程は患者によって違うため、抜歯後のインプラント埋入のタイミングは、教科書的な条件や抜歯後の厳密な時間経過ではなく、創傷治癒過程の良好な臨床転帰に基づく必要があります。したがって、抜歯窩の治癒過程に関する知識は、臨床医がインプラント埋入にふさわしい時期を選択するのに役立ちます。インプラント埋入に関連する治癒の時期は、抜歯時に行われるタイプ1の即時インプラント埋入、抜歯4〜8週後の軟組織の治癒後に行われるタイプ2の早期インプラント埋入です。抜歯12〜16週後には部分的に骨が治癒します。この時点でのインプラントの埋入は、タイプ3の埋入として知られています。タイプ4の後期インプラント埋入は、(抜歯後)16週間以上経過した(抜歯窩の)治癒後に行われます。
歯の喪失の影響、学習のキーポイント:歯の喪失の後に、重要な骨のリモデリングが発生します。歯周組織のバイオタイプは頬側皮質骨の厚さと相関します。抜歯窩の治癒の段階に基づいて、インプラント埋入にさまざまな時期があります。
抜歯後のインプラント埋入のふさわしい時期に関係なく、歯槽堤の温存は、抜歯による侵襲を最小限にすることから始まります。このことは様々なデザインとコストのい新しいいくつかの器具の導入により、臨床医が抜歯窩の壁を保護できるようになり、結果としてインプラント埋入が成功する可能性が高まってきています。
基本的な抜歯器具は、伝統的にはエレベーター、鉗子、ハンドピースで構成されています。伝統的なこれらの器具は、歯槽への損傷のリスクに関係なく、歯の迅速な除去を念頭に置いて使用されていました。それにもかかわらず、これらの器具は歯(と歯槽骨)の分割面に適合させることで、抜歯窩の壁を損傷することなく、最小限の侵襲で抜歯することもできます。
伝統的に、抜歯は歯槽骨や周囲組織への侵襲をほとんど考慮せずに迅速さが優先されてきました。しかし、テクニックの一部の根本的な変更により、歯槽と軟部組織への侵襲を減らすことができます。臨床医は、フラップの剥離(上昇)を回避する意味で、フラップレスアプローチを使用する必要があります。臨床医は、歯槽の頬側よりの抜歯を避け、積極的な抜歯術による歯槽骨の除去を避けるべきです。さらに、臨床医は、硬組織および軟組織を損傷する恐れのある、過度の力は使わないようにする(配慮が)必要です。
従来の器具を使用して最小限の侵襲で歯を抜歯するには、まず歯を分割する必要があります。分割は、テーパーがついたクロスカットフィッシャーバーまたは類似したものと適切な注水により使用します。分割後は、根を個々にに挺出させることで、周囲の歯槽骨への侵襲を最小限にして抜歯する(取り除く)ことができます。良好な治癒を期待するため、(期待される治療を続ける前に)、常に根尖病変を取り除き、抜歯窩内の搔爬を徹底的に行う必要があります。歯根の完全な除去が疑わしい場合は、術中に根尖周囲のレントゲン写真で確認するべきです。(の撮影を行うべきです。)
脱臼技術の進歩により、頬側皮質骨に損傷を与えることなく歯を歯槽から脱臼するための器具がいくつか開発されました。これらには、ペリオトーム、電動ペリオトーム、プロキシメーター器具、およびピエゾサージェリー(超音波切削器具)が含まれます。
ペリオトームは通常、安価な薄い刃のような器具であり、歯の周囲に付着した歯周靭帯を切断するために使用されます。先端はデリケートであり、簡単に曲がったり折れたりする可能性があるため、歯を挺出させるには使用しないでください。
ペリオトームと外科用マレットを精密に組み合わせて使うことで、歯周靭帯のスペースにより深く到達することが可能になり、歯をより効果的に脱臼することが可能となります。ただし上下的な動きでペリオトームをねじらないように注意する必要があります。
ビデオでは、歯周靭帯の線維を低侵襲で切断するために、ペリオトームと先端がゴム性の外科用マレットを組み合わせた使用法を示しています。ペリオトームが歯周靭帯のスペースに嵌まり込んだのち、横方向に動かすことで簡単に靭帯の切断ができます。歯根を挺出させるためにペリオトームをねじることはしません。ペリオトームは、歯根の近心側、遠方側、口蓋側にのみ挿入します。これは、頬側の皮質骨を骨折したり、歯肉を引き裂いてしまうのを避けるためです。最終的な歯の抜去は、エレベーターまたは鉗子で行われます。
電動ペリオトームは、ペリオトームが歯周靭帯のスペースへの垂直的な前進を電動で制御するため、外科用マレットの必要性ありません。出力の調整は、コントロールボックスとフットペダルを使用することで行います。電動によるペリオトームのコントロールと深達度合の調整は、手動と比較して大幅に改善されており、さらに、注水も必要ありません。
ペリオトームの場合と同様に電動ペリオトームは頬側を避けて近心、遠心、口蓋側の歯根膜腔に挿入します。その際、術者は器具破損を防ぐために先端を回転させないようにしなければなりません。患者さんは高速動作のユニットと音により電動ペリオトームの使用を嫌うことがあります。そのような場合は鎮静下での処置を検討する必要があります。鉗子と挺子を注意深く使用することで抜歯が完了となります。
プロキシメーターは歯根膜と歯周靭帯を切断するため、ペリオトームをより強固にしたツールです。その強固な構造により、プロキシメーターは歯槽を近遠心的に拡大し歯根を挺出させることができます。また多彩なチップの種類により様々な臨床状況に対応可能です。
ピエゾサージェリーは圧電子効果を用いることで軟組織に損傷を与えることなく、硬組織を切断します。また抜歯を含む様々なアプリケーションのためのチップ(インサート)が使用可能です。ピエゾサージェリーの主な利点は軟組織の保護、術野の確保、出血の減少、振動と騒音の低減、歯の構造の保護と患者の快適性の向上です。さらにピエゾサージェリーはカーバイドバーとダイヤモンドバーに比べて、骨新生、リモデリングに優れる事が報告されています。
ピエゾサージェリーは異なる解剖学的部位に対して、様々なチップ(インサート)が使用できます。歯の破折片を除去する場合、ピエゾサージェリーと適切なチップ(インサート)の使用により容易に行う事ができます。適切なチップ(インサート)の動作と洗浄を行い歯槽骨の熱損傷を防ぐために、適切なフラップの展開が推奨されます。チップ(インサート)にトルクをかけたり、チップ(インサート)で持ち上げる動作は避けてください。最終的に残された歯を注意深く除去してください。
緩徐な歯の挺出はこれまで歯科矯正で応用されてきました。近年、抜歯窩を変形させることなく、垂直方向の応力のみで即時に抜歯できるインスツルメントが導入されました。これにより頬側骨壁と周囲組織への障害を最小限に抑えることができます。アンカーとプーリーもしくはレバーによる2種類のシステムが主流です。
歯科矯正による抜歯は骨や軟組織に重大な骨量不足や形態的な問題(欠陥)がある場合や、患者が歯列矯正治療を受けている、あるいは必要としている場合に適応されます。インプラント埋入に先立ち歯の挺出を行うことで、明らかな骨と軟組織の新生を認めます。しかしこの手法には時間とコスト、審美性といった欠点があります。こちらは上顎右側中切歯における唇側の軟組織と硬組織に不調和をきたした一例です。抜歯即時埋入に際し、適切な周囲組織構築のため、歯科矯正による歯の抜歯を決定しました。2年の間、歯科矯正により歯の挺出を行う事で硬組織と軟組織のボリュームが大きく改善できました。中切歯唇側面に着目すると周囲組織の改善がより明確です。
アンカーとプーリーによる垂直的な抜歯デバイスは、鉗子と挺子による抜歯が困難な場合に、低侵襲の抜歯を可能にします。またこのデバイスは周囲組織への侵襲が最小限でなければならない審美的領域の場合に有効です。このデバイスはプーリーシステムと歯の長軸に沿った挺出力のコントロールが重要です。これにより、従来の抜歯操作で発生する抜歯窩への応力を排除することができます。
この挺出過程はペリオトームで歯根と歯槽骨を分離することから始まります。次にツイストドリルで歯に向かい最低7mmの深さでチャネルを形成します。アンカーはこのチャネルを通じて歯根にスクリュー固定されます。トラクションケーブルはアンカーに引っ掛けられ、滑車上からけん引装置に設置されます。このデバイスは臨在歯咬合面にテフロンパッド接するように配置されます。挺出は手動のスクリューにより緩徐に行います。
アンカーとレバーシステムでは挺出スクリューも使用されます。しかしその場合はテフロンパッドの代わりに修正された印象用トレーやプレートの印象材からサポートを得ます。デバイスを挺出スクリューの上部に設置し、ノブを回しレバーをアクティブにすることで、歯を緩徐に挺出させることができます。
この場合の挺出過程はアンカーとプーリーによるデバイスと同様の方法で始まります。まずペリオトームで歯根と歯槽骨を分離し歯を脱臼させます。次のステップでは歯の表面を平坦化させます。これにより挺出スクリューアンカーが完全にかみ合うようにします。挺出スクリュー用のチャネルはより太い直径のドリルで形成し、適切なスクリューを選択します。挺出スクリューは先端が保護プレートより突き出している必要があります。プレートは印象材を充填し挺出スクリューの上に置きます。印象材が硬化したのちにレバーをプレート上に設置し、挺出スクリューとかみ合わせます。デバイスのノブを回すことでアームがアクティブになり、歯を緩徐に挺出させます。
これら2つのシステムにはそれぞれ独自の利点と欠点があります。アンカーとプーリーシステムの利点は挺出途中での視認性が良く、臼歯にも応用できる点です。一方で複根歯には時間がかかり、レバーシステムに比べてアンカースクリューが短いことから、広い嵌合が必要な場合や破折歯、歯根が長い場合に適応が難しいことが欠点でもあります。
対照的にアンカーとレバーシステムでは歯根により深く嵌合させることができる長いアンカースクリューを備えています。加えてチャネル径を調整することで、より太いスクリューを使うことも可能です。そのためには歯槽の側面をサポートする印象材が必要です。しかしその作業はチェアタイムを増加させ、印象材により挺出スクリューの視認性を低下させます。また印象材の使用によりコストも増大します。更にレバーシステムは後方スペースに制限があるため、第二小臼歯までしか適用できません。これらのデバイスは症例に応じて自由に選択できます。どちらのシステムを選んでも、歯槽骨への侵襲は最小限にすることが可能です。
抜歯テクニックの重要ポイント:従来の抜歯操作は硬組織と軟組織に過剰な侵襲を加え、骨の喪失と治癒延長をもたらす可能性があります。しかしながら、従来の抜歯器具を正しく適応し、フラップレスアプローチと適切な歯の分割により、侵襲を最低限にすることができます。これらの技術と最新のデバイスを活用することで周囲組織への侵襲を抑え、抜歯窩を愛護的に扱うことが可能となり、その後の(インプラント)治療を円滑に進めることができます。
侵襲を最小限に抑えた挺出デバイスについての要約:周囲組織への侵襲を最低限に抑えた歯の挺出デバイスには多くの利点があります。具体的には周囲軟組織への侵襲軽減、抜歯窩を愛護的に扱うことによる抜歯後の歯槽骨吸収の抑制、その後の治療予測性の向上です。
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